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全ての人にスポーツを

ソチ冬季オリンピックでトップアスリート達の美技を見て、「彼らは小さい
ころから特別なトレーニングを積んできたのだろう」と感じた方も多いだろう。
私も先月、カナダでのスポーツカンファレンスに参加するまではそう思っていた。

 

カナダは他の国と同様に「一握りの天才」を探し出し、集中的に育成するという
タレント発掘をおこなっていた。しかし、それではトップアスリートの数が
増えないうえに、「一握りの天才」がさまざまな理由で競技を続けられなくなる
ケースもみられるようになった。

 

そこで、カナダのスポーツ省は全ての人を対象にした「長期的なアスリートの開発」
へのモデルチェンジを始めた。

 

基本モデルの内容は、6歳まではスポーツと出会い、6〜9歳は基本動作の習得、
9〜12歳は何のために練習するのかを理解し、12〜16歳は特定のスポーツのための
心身をつくる。そして、16〜20歳は競技会で能力を磨くのだが、この頃から優れた
能力の持ち主は勝つための練習へとシフトしていき、その中から卓越したアスリートが
輩出されていく。

 

そうでない人たちはスポーツを通して生きるための体力や競争力を養い、
その後の人生において健康を維持するためにスポーツ活動を継続していくこと
になる。

 

このモデルに沿ってスポーツに取り組む人が増えるほど、トップアスリートが
生まれる可能性が高まるという仕組み。みんなが同じスポーツモデルで成長する
ことで、トップアスリートへの共感も高まり、トップアスリートを取り巻く
環境もよくなるというわけだ。さらには、スポーツへの興味関心が高い国民が増え、
健康が維持されることが期待されている。

 

カンファレンス終了後、冬になると川が凍結し天然スケートリンクになる運河に
行った。平日の夜7時ともあって、リンクはスケート靴を履いた会社員や学生たちで
にぎわっていた。何度も尻もちをついている私を横目に、クルクル回転する人も
いれば、スピードを競い合う人の姿も。

 

スポーツはトップアスリートのためだけのものではない。
自分たちのようなスポーツ愛好者の延長線上にトップアスリートがいると感じられれば、
「国費を使ってスポーツをやっているのだからメダルを取れ」という発想は生まれない
だろう。

 

天才は作るものではなく、出てくるもの。日本も天才が芽を出しやすい土壌に、
たくさんの種をまいてほしい。

 

コラム「ママは監督」2014年3月4日 毎日新聞 夕刊掲載分
2014-03-06
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