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「出産は病気ではない」

 

この春、女子マラソンの世界記録保持者である、イギリスのポーラ•ラドクリフ選手
に会った。彼女はとても「自然体」だった。
約7年前、第1子アイラちゃんの妊娠は、「いつもと何かが違う」という気配を感じ
てから、10日でわかったという。その時の気持ちを、「JOY(楽しみ)」という
言葉で表現した。
彼女は妊娠によって、そのキャリアが一時ストップすることに何のためらいも
感じなかったという。すぐにトレーナーに相談し、アスリートの妊娠と出産をサポート
した経験のある婦人科医を紹介してもらった。
また、1980年代を代表するランナーで、元世界記録保持者のイングリット・
クリスチャンセン(ノルウェー)や、女子マラソンが始めてオリンピック種目となった
84年ロサンゼルス大会の覇者、ジョーン・ベノイト(米国)ら、先輩ママさんランナー
に連絡し、出産前後のトレーニング等について教えを請うた。

 

彼女のコーチであるご主人に練習の相談をしなかったのかと聞くと、
「彼は男だし、専門医ではない。私のことは私が一番わかっているわ」。
ドクターからの注意は、心拍数が毎分160以上にならないこと、体温が上がりすぎ
ないこと。この2つを守り、練習スケジュールを自分で立案した。7ヵ月までは以前と
同様に1日2回の練習、最後の2ヶ月は1日1回のランニングとアクアトレーニングを
継続した。
そして産後10日でランニングを開始している。

 

日本にも少数だがママさんランナーはいる。
赤羽有紀子選手(ホクレン)は、ポーラと同じように出産前後もトレーニングを
継続させ、日本人初のママさんランナーとして北京五輪に出場した。
しかし、あるマラソンランナーは母親から「出産前後に無理をすると産後の肥立ちが
悪くなる」と言われ、妊娠がわかってから産後5ヶ月まで一歩も走らなかったという。
さすがにどんなアスリートでも1年以上運動しなければタダの人。日本はママさん
アスリートが少ないのもうなずける。

 

諸外国は「出産は病気ではない」という考え方で、一般的に出産後48時間で退院する。
違いを産婦人科医に質問すると「古くからの言い伝えではないか」とのこと。
科学的な根拠はないらしい。

 

女性アスリートの出産は、自分の身体に耳を傾け臨機応変に対応できる高度な柔軟性が
なければ実現できない。
ママさんアスリートの強さはここにあるのかも知れない。

 

 

コラム「ママは監督」2013年5月14日 毎日新聞 夕刊掲載分

2013-05-14
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